ドイツは再エネの電力系統への大量受け入れをどう解決したか。さらに買取価格の膨張の問題にどう対処したか。

1)変動電源は出来るだけ広域エリアの系統で受け入れること

再エネは季節や気象条件により発電量が変動する電源である。日照時間や風量などは予測することが難しい。秋春の電力需要の少ない時期には再エネ発電量だけで需要をオーバーしてしまうことすらあるのである。この変動する電源を自社の系統エリアだけで受け入れに当たると変動の大きさに対応しきれない可能性が高い。日本の場合電力会社は9社あり地域ごとに分割されているが、自らのエリア内だけで再エネの系統受け入れしているのが実情である。これでは再エネの系統受け入れの余力はすぐに限界になってしまう。ドイツの場合EU全体が一つの電力系統となっており変動電源の許容度を高めているのである。

2)ドイツの再エネ固定価格買い取り制度は破たんしていない

1.賦課金膨張

ドイツが固定価格買取制度により再エネが急拡大し、そのために費用膨張の対応に追われたことは事実である。しかしこれはドイツが再エネ拡大を目的とした固定価格買取制度を導入しことに大成功をおさめた結果の副作用とみなすべきものである。そのため緊急で固定価格買取制度の見直しが必要になり電力改革は次のステップに踏み出すことになったというのが正解のようである。(電力システム改革と再生可能エネルギー 諸富徹編著)

ただ、再生エネルギーのコストは年々下がって来ていてすでにドイツでは既存の旧来型の化石燃料の発電設備に比べれば再エネの価格的の方が安いものも出て来ているといわれている。近い将来には再エネが化石燃料に対してもコスト優位性があるといわれるまで後一歩のところだといわれる。

2.再生可能エネルギーの市場化

そこで今言われているのが、再エネの「市場化」という方向性である。これは従来系統管理会社はFITで買い上げた電力をほぼ全量電力市場に売って、その際の売買差額は賦課金として計上し消費者負担として分配される仕組みだった。今でもその仕組みなのだが、それに加えて、これを固定的枠内での売買だけでなく、再生事業者自身が直接電力市場に参入できるようも仕組みの変更が検討されたのだ。しかし単に市場に打つだけならまだ再エネは力不足なので何らかの市場プレミアムを付加することによってそれを補うことにしたのである。それによって市場メカニズムを利用できるようにするわけである。結果、本当に競争力のない発電会社は淘汰されることになる。この仕組みにより市場での競争を奨励し賦課金のコストを下がることが期待されるのである。再エネ業者は現時点ではFITを使うことも出来るが、市場で売買することも選択することも出来る。

3.キャパシティー市場の創設

電力市場における取引はメリットオーダーという仕組みを使って行われる。これは発電所の限界可変費用を安い順に並べたリストと需要曲線との交点から電力取引を成立させるが、限界費用が市場均衡価格よりも安ければ発電所は価格と限界費用の差分を資本費に充当することが出来る。この仕組みよって理論的にはピーク電源の資本投下費もカバー出来て、発電所の投資インセンティブを引き出すことが可能とされたのだが、Cramton(2012),Cramton(2013)には現実には需要超過時の電力価格が投資を引き出す水準に至らず、必要な発電の容量確保が出来ない事態が生じることが示された。

ドイツにおいてキャパシティー市場の創設が検討され始めた背景には上記の需要超過時の投資インセンティブの問題に加えて、ドイツ特有の要因が3つあるとされた。一つは原発が順次フェードアウトしていくという状況であり、もう一つは再生可能エネルギー進展のために既存火力発電所の収益が悪化しガス発電所への投資インセンティブが低下している現実があげられた。さらに三つ目として再生可能エネルギーの地域偏在性の問題がある。

ドイツの風力発電は比較的北部に集中しているが電力消費地は南部が大きい。ドイツは再生可能エネルギーのさらなる拡大と原発のフェードアウトによる電力容量の不足に備えて、ドイツエネルギー法のもとで南北連系線を増強して南部の電力不足を解消することに努めている。しかしながら、BnetzA(2013)によれば2015年までに工事が完了するのは計画1855KMのうち50%程度されている。しかも、たとえ連系線の工事が予定通り完了したとしても非変動電源への投資不足によって将来的に発電容量の不足が懸念されているのである。

そういうわけで、発電容量の確保のための「キャパシティー市場」の創設が検討されることになったのである。次にキャパシティー市場とは何かとみて行こう。